Show Down ザ・対決 VOL.12

取材協力:トライアンフジャパン
/ヤマハ発動機
文:ケニー佐川 写真:山家健一 映像:アートワークス
 
 
 

存在感だけでな
走りもプレミアム

 

ビモータにはその時代時代で何台か乗せていただく(つい敬語になってしまう)機会があった。ドゥカティ900SSの空冷エンジンを使ったDB2とアルミ楕円フレームに搭載した進化版のDB4。水冷GSX-R1100ベースのDB6、TL1000RのVツインをアルミとドライカーボンのコンポジットフレームに搭載したSB8Rなとだ。

いずれも、その時代で定評のある強力なパワーユニットを選び、独創的なフレームコンセプトで作り上げた個性の塊のようなバイクたちだった。ビモータというと、お金持ちの所有欲を満たすための高価で優雅なバイクと思われがちだが、実際の乗り味はかなりスパルタンで、超がつく軽量コンパクトな車体とパワフルなエンジンにより、エキスパートライダーをも唸らせるハンドリングマシンとしてその存在を主張してきた。

DB8もまさにそんなマシンだ。跨った瞬間、自分の身が引き締まるのが分かる。高いシートに低いハンドル、後退したステップ、硬いサスペンションに250ccのように細いタンクまわり・・・・・・。知りうるどんな市販車よりレーシーなポジション。そこにドゥカティの先代最強スーパーバイク、1198のエンジンが“剥き出し”で乗っているのだ。

剥き出しというのはもちろんイメージであって、正しくは“素の状態”という意味。1198には電子デバイスがふんだんに盛り込まれているのに対し、DB8はあえてそれら“余分なもの”を取り去ってある。今流行りのパワーモードやトラコン、ABSなどのライダーサポートシステムは一切付いていない。つまり、ライダー自身が“自分の腕”ですべてをコントロールして走る必要があるのだ。その意味で、スパルタン極まりないバイクと言える。「私を乗りこなしてみせてよ」と、まるでライダーを挑発しているかのようだ。

街中では景気のいいVツインサウンドとその芸術的なフォルムによって目立ちまくる。クルマで言えば、フェラーリを転がしているようなものだろう。ただ、前傾はきつくエキパイの熱もこもるので早く抜け出したいのが本音。もちろん、渋滞などはもってのほかだ。

高速道路でも飛ばせば飛ばすほど楽しい。電子デバイスのオブラートに包まれないエンジンは、本家の1198よりさらにワイルドな鼓動感を伴いながら超軽量な車体を爆発的に加速させ、スラントノーズのスリムな車体は空気を切り裂いて飛んでいく。これで、イタリアの超高速道路「アウトストラーダ」を全開でかっ飛んでいけたら、どんなにか爽快だろうなと思う。

ワインディングではさらに個性が炸裂する。エンジンは低中速寄りにセッティングされていることもあり、スロットル操作に対する初期のレスポンスも俊敏なので、ライダーがしっかりコントロールしてやる必要がある。加えて、アルミ合金とクロモリ鋼のコンポジットフレームは、日本のストリートの速度レンジではいささか硬めな印象。リヤサスもバネレートが高めな感じで、相対的にリヤ車高が常に高いためハンドリングが神経質になる。そこで、プリロードを弱めて伸び圧の減衰力も少し抜くと、マシンの姿勢がフラットになって俄然乗りやすくなった。

それでも乗りこなすのは簡単ではない。軽量かつ高剛性な車体であるが故に、ハンドリングは超がつく鋭さで、同クラスのスーパースポーツのつもりで倒し込んでいくと、狙った地点よりだいぶ手前でインについてしまう。曲がり過ぎてしまうのだ。バンキングスピードが速すぎて、一瞬のうちにフルバンクまでいってしまうので最初はなかなか感覚が追いつかなかった。加えてこのプライスなものだから、ついバンクさせるのを躊躇してしまうというのが本音。DB8の設計思想を味わいながら、もっと自然にのりこなすためには、さらに高いコーナリング速度が必要だ。本来ならサーキットに持ち込みたいところだ。

このソリッド感、キレ味は実は過去に体験したことがある。ドゥカティ916とその末裔だ。あの頃はまだ電子制御もなくトレリスフレームもガチガチで、ライダー自身が強い意志で倒し込みポイントを決めて「エイヤーッ」とやらないと曲がってくれなかった。その分、スパッと決まると剃刀のようにコーナーに切り込んでいくし、その鋭いキレ味を恐怖と捉えるか歓びに変えるかは、ライダー自身にかかっていたところが似ている。ちなみに、916を設計した天才デザイナー、マッシモ・タンブリーニはビモータの創始者のひとりである。そんなところも接点になっているのかもしれない。

ブレンボのラジアルキャリパーと軽量鍛造ホイールの組み合わせからも、ブレーキングの鋭さは想像に難くないと思う。正確で強力だが、ABSなどないのでコントロールもシビアだ。

とまあ、とにかく乗り味はスパルタンで、ライダーの甘えを許してくれない厳しさがある。その一方で、純粋にストイックにスポーツライディングを追求したい人には、付き合い甲斐のあるマシンと言える。誤解を恐れずに言うならば、乗りこなせる人には濃密なエキサイティングを惜しげもなく与えてくれるはずだし、腕はなくてもガレージに保管してブランデーグラス片手に愛でていたい人にも至福の時を約束してくれるだろう。

その意味でもDB8は常識では測れない、プレミアムなモーターサイクルなのである。

 


 

 

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