Show Down ザ・対決 VOL.12

取材協力:KTMジャパン
/福田モーター商会
文:ケニー佐川 写真:山家健一 映像:アートワークス
 
 
 

見た目はアバンギャルドだが
性格は穏やかで扱いやすい

RC8Rエキセントリックなマシンだ。デビューから数年が経つが、その前衛的なフォルムはいまだに新しさを感じさせる。コンセプトモデルがそのまま実車になったようなインパクト。デザインの持つ力をあらためて私たちに知らしめてくれる。

KTMの故郷、オーストリーは広義にはドイツ語圏に属するゲルマン民族系の国であるが、お隣のドイツで生まれたBMWとはだいぶ趣が異なる。ここ数十年の間、KTMはオフロード専業メーカーとして歩んできたが、BMWが作るGSシリーズを代表とするオフロードモデルとはエンジンも車体もまったく違った構成である。

RC8Rの場合、エンジンはVツインでフレームはクロモリとくれば、ドゥカティや今回のライバルであるビモータなどのイタリアンと似ているようだが、その実、Vバンク角(75度)やフレームの作りも独自のレイアウトを採用するなど、知れば知るほど興味深い。

「READY TO RACE」をスローガンに掲げるKTMの最高峰モデルというだけで、緊張してしまいそうだが、実際に乗ってみるとイメージとは真逆。とても扱いやすく乗りやすいというのが第一印象だ。スーパースポーツとしては シート高も低め(805㎜/825㎜)だし、ハンドル位置は高めステップ位置も比較的前寄り。変な話、DB8から乗り換えると、ネイキッドモデルのように思えてしまうほど。車格自体はやや大柄なのだが、サスペンションがソフトで初期の沈み込み量も大きいので、足着き性も良く、スーパースポーツらしからぬ快適な乗り心地といっていい。シートも薄いようで、クッション性も悪くないのだ。

エンジンはショートストロークで1200ccとは思えないほど吹け上がりは軽快サウンドはメカニカルな感じで、ドゥカティ1198のエンジンを持つDB8と比べると無機質だ。本国仕様であれば、本来なら1万rpmオーバーでピーク175psを発生するパフォーマンスを持っているが、日本仕様は6500rpmで101psに抑えられていることもあり、出力特性はかなりマイルドな印象。コーナー立ち上がりでスロットルを開け切れるイメージだ。ピークを低中速にふっている分、逆にトルク感が際立っていて、エンジンをあまり回さなくても楽に楽しく走れるのがいいところ。ワインディングでもマシンに急かされるということがない。

ハンドリングは素直で分かりやすいタイプ。倒し込みは軽快だが俊敏すぎず、旋回中のフロントの切れ込みやアンダーステアなどのクセもなく、どんな速度でも変わらないニュートラルステアが基本。WPの前後サスの動きもいい。ブレーキングでフロントを沈み込ませて倒し込みから1次旋回へ。立ち上がりではスロットルを開けつつリヤサスに荷重を移して2次旋回へ、といった一連の挙動が分かりやすいのだ。穏やかなエンジンと、しなやかな車体が生み出す安心感が、RC8Rの真骨頂かもしれない。

少しペースを上げていくとさらに新たな顔が出現する。特筆すべきはトラクションの良さ。特にコーナー後半、2次旋回でスロットルを開けていくシーンでは、加速しながらみるみる車体の向きが変わっていく。その意味ではオーバーステア的な動きをするのだが、これはまさしくオフロードマシンの曲がり方に通じている部分。オフロードで圧倒的なノウハウを持つ、KTMならではのハンドリングの妙と言えよう。

高速道路は背の高い大きめのフルカウルにより防風効果もかなり良いし、上体が起きたフォームのおかげで首も楽。ストローク感があって路面追従性のいい前後サスによって乗り心地も快適だ。国内で乗るのであれば、パワー不足を感じることもないはずだ。

この手のモデルとしては街中も得意だ。扱いやすいパワーと楽なライポジ、大きなハンドル切れ角のおかげで、渋滞路でもあまり苦にならない。トルク型エンジンにより、高めのギヤでもストレスなく流せるため、シティクルーズもできてしまう。それでいて、このデザインだから注目度は抜群! よって、街乗りも楽しめる数少ないスーパースポーツと言っていいかもしれない。

ブレンボのモノブロックラジアルキャリパーも強力だが、レバーストロークは比較的多めでタッチは穏やか。入力に応じてリニアに効いてくれるので、コーナーアプローチでの速度コントロールもやりやすい。ABSやトラクションコントロールなどの電子デバイスは持たないが、元々ライダーフレンドリーなキャラクターゆえに、こうした装置の必要性もあまり感じずにスポーティな走りを楽しめると思う。

KTMのアグレッシブなメーカーイメージとアバンギャルドな外観に似合わぬ、穏やかで扱いやすいキャラ。カッコ良さと実用性の両立。この二面性こそがRC8Rの奥深い魅力になっていると思う。

 
 
DB8とRC8R。優雅に見えて実はスパルタンなビモータと、アグレッシブな外観によらず乗ると優しいKTM。ともに1200ccクラスの高性能Vツインを抱く、ハイエンドのスーパースポーツでありながら、テイストがこうも違うとは・・・。価格もターゲットユーザーも異なる2台ではあるが、もっと根源的な部分での作り手の意志のようなものが見え隠れして興味深い。これだから、モーターサイクルは面白いのだ。
 


 

 

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